自己肯定感」という言葉は、よく耳にされると思います。

この言葉は1994年に高垣 忠一郎 氏によって提唱されました。

高垣 氏は自身の子どもを対象にしたカウンセリングの体験から、

当時、没個性化が生じていた子どもの状態を説明する用語として

自己肯定感」を用い、その後、日本の子どもの自己評価が

他国の子どもの自己評価に比べて低いことが指摘されるようになり、

日本の教育現場において「自己肯定感」が注目されるようになりました。

 

発達障害や精神疾患の方にとって、この「自己肯定感」は意識しなくては

ならないものだと思います。

特に、鬱傾向や希死念慮、自傷がある方には、「自己肯定感」をいかに高めて

いくかが、ご本人、支援者における課題になっています。

 

そんな中、Twitterで『ホメ療法というのがあることを知りました。

これは、もる サマというTwitterユーザーから発信されたもので、

自身で行う『認知行動療法』の一環として、自身の今日出来たことを

定期的につぶやきに載せ、自身を褒め、

また同じ想いを抱えている方同士で共感、いいねを送り励まし合うというものです。

とても素晴らしい取り組みだと思います。

何より、その発信が実際に発達障害の当事者であることが着目すべき点です。

支援者はあくまでも支援する立場で物事を見ます。

いかに支援者が先々のことを考えてのことだとしても、

当事者においては苦労することである場合も大いにあります。

中には、わたしもそうですが、過去の体験から支援したいと考え、

支援者になるということもありますが、やはり当事者よりも理解できているか

といえば、それは難しいと言わざるを得ません。

当事者ご本人がご自身を認知し、それに対して対応するということは、

セルフカウンセリングに当たり、とても勇気のある行動だとわたしは思います。

 

さて、ここまで「自己肯定感」の重要性についてを述べて参りましたが、

支援者の目線として「自己肯定感」に関して注意点があります。

 

ねこ屋でも実施している『交流分析』という心理療法があります。

これは、精神科医エリック・バーン 氏によって発案された

人間関係に特化した心理療法で、1950年代から発達してきた

心理療法です。

この『交流分析』の要素の一つに、自分自身と周囲に対してのスタンスを分析

する、『人生態度』というものがあります。

 

人生態度』は、自身と周囲に対してのスタンスを『肯定』『否定』に分類し

分析するのですが、ここでもまた『自己肯定』という表現が使われています。

そして、そこで注目したいのが自身ではなく周囲に対してという意味の

他者肯定』という言葉です。

 

先に述べた高垣 氏が用いた「自己肯定感」という言葉は、

日本の教育、療育の現場において重きを置いて指導がなされており、

そのために「褒める」ことや「成功体験」が多くの支援者の指導理念に

なっています。

けれども、コミュニケーションという発達障害や精神疾患の方が苦手とする

分野を過度に避け、ただ個人に対して「自己肯定感」を上げることだけに

尽力してしまうと、『自己肯定』のみが上がり、『他者肯定』が下がって

しまっているケースがよく見受けられます。

 

例えば、いつも一対一で接することの多いお子様を一対二で指導を行う機が

あったとします。

支援者はいつも通りによく出来た点、頑張った点を見つけ、二人に対して

平等に「褒め」ます。

けれど、日頃一対一で接することの多いお子様は、この時、

自分だけを褒めて欲しい」という独占欲が芽生えてしまいます。

常に集団の中に身をおくことが多いお子様であれば、

皆一緒に褒められて良かった」という考え方が出来るのですが、

前者のようなお子様は、経験が不足していることで、

同じ対応をしているのに、違う感情を抱いてしまうことがあるのです。

この特徴は、自閉症スペクトラム(ASD)や抑鬱傾向にある方によく

見られます。

また、家庭環境的には、ご兄弟がいて、ご兄弟には現状まで発達障害の特性や

精神疾患の要素が見られていない方に多く、ご家庭においてご本人が

思ったように褒められていない、劣等感を感じているといった特徴があります。

そして、特性としてそういったお子様には、俗に云う「一番病」、

勝負事に対しての執着が見られることが多いように思われます。

 

このように、その方それぞれの特性、環境を知り、

歩み寄って考え方に耳を傾けずに、

ただ一辺倒に「自己肯定感」を上げようとしてしまうと、

反比例して『他者肯定』が下がっていってしまうのです。

 

一時を考えれば、「褒める」ということは「快感情」を与え、

自己肯定感」を高めることです。

まして、支援者の大半は支援することを生業としているわけですから、

顧客様に対して満足度を高めることは必須と考える行為です。

ですが、先々を考えた時に、善悪の概念、

社会ではどういう対応がなされてしまうか、

を念頭に置いておかないと、自分の手を離れた時に、

その方が生き苦しくなってしまうかもしれません。

 

自己肯定感」を高めることはとても重要なことだと思います。

しかし、発達障害や精神疾患を抱えたご本人、ご家族、支援者では、

それぞれ違った捉え方、その時々で対応を変えることが必要です。

 

発達障害や精神疾患を抱えたご本人は、

ご自身とそして他者の「自己肯定感」を高めましょう。

ご自分が頑張ったときには、まずはご自分を認めてあげ、

誰かに共感できると思ったときには、相手を褒めてあげてください。

ご家族の方は、「自己肯定感」を高めるチャンスを

見逃さないようにしましょう。

生活している上で、家族として諭さなければいけないことは必ずあります。

怒らなくてはいけないときがあります。

なので、その分頑張っているときには、例え結果が伴わなくても

たくさんたくさん褒めてあげてください。

そして、支援者の方は、

ただ褒めるのではなく、認めてあげてください。

想いを、考えを受け止め理解し、

その方に対して必要なことを模索してあげてください。

だって、プロなのですから。